6. 食後の余剰エネルギ6・1. 食後の余剰エネルギの行方心臓病の発症の主な原因は、コレステロールやエネルギーの摂り過ぎによる肥満です。 糖尿病は、遺伝的な素質が過食、肥満、運動不足などの後天的な要因と重なって起こります。 中でも、最も重要な要因は肥満で、遺伝的な素質を持った人は、特にエネルギー源となる脂質や糖質の摂り過ぎに注意しなければなりません。 食後の余剰エネルギは、澱粉を食べた場合は、主としてぶどう糖です。 ぶどう糖は血糖調節システムの作用によって脳、肝臓、筋肉などなどの個々の組織へ取り込まれます。 取り込んだ組織のエネルギ必要度、および取り込んだ組織が好気的あるいは嫌気的であるか、によって、ぶどう糖の代謝様式は異なります。 組織のエネルギ必要度は、通常、空腹感の程度に比例します。 空腹感は、運動などによって、組織のエネルギが不足しているときに生じ、このとき、組織細胞のグリコーゲン貯蔵量が減少しています。 6・1・1. 空腹感のある時に適量の食事をした場合 a) 脳や肝臓などの好気的な組織 食物中の澱粉は、先ず、ぶどう糖を経て、解糖によってピルビン酸へ分解され、同時に、 ATP と NADH2 を合成します。 生じたピルビン酸は、次に、アセチル CoA を経て、くえん酸サイクルと酸化的燐酸化によって、多量の ATP を生成し、同時に、CO2 と H2O へ分解されます。 生じた NADH2 は酸化的燐酸化によって NAD へ酸化され、ATP と H2O が生じます。 ぶどう糖はグリコーゲン合成に利用されます。 食物中の脂肪は脂肪酸とグリセロールへ分解されます。 生じた脂肪酸はアセチル CoA を経て、くえん酸サイクルと酸化的燐酸化によって、ATP を生成し、同時に、CO2 と H2O へ分解されます。 生じたグリセロールは糖新生によってグリコーゲンへ変えられます。 食物中の蛋白質はアミノ酸へ分解されます。 生じたアミノ酸の一部は、アセチル CoA を経て、くえん酸サイクルと酸化的燐酸化によって、多量の ATP を生成し、同時に、CO2 と H2O へ分解されます。 残りのアミノ酸は、オキサロ酢酸あるいはピルビン酸を経て、糖新生によってグリコーゲンへ変えられます。 b) 筋肉などの嫌気的な組織 ぶどう糖は、先ず、解糖によってピルビン酸へ分解され、同時に、少量の ATP を合成します。 筋肉では、ATP は筋収縮に使われます。 生じたピルビン酸は乳酸発酵によって乳酸へ変えられます。 乳酸は、細胞中の pH を酸性に傾けることによって、疲労感を引き起こします。 生じた乳酸は血流によって主として肝臓へ送られ、そこで、糖新生によって、ぶどう糖へ変えられ、血中へ放出され、再利用されます。 筋肉運動をした場合には、食物中の蛋白質はアミノ酸へ分解された後、筋肉蛋白質の合成へ利用されます。 6・1・2. 空腹感のない時に、特にエネルギ量の多い食事をした場合 個々の組織、特に肝臓や筋肉などの細胞のグリコーゲン貯蔵量は満杯の状態です。 したがって、食物中の澱粉、脂肪および蛋白質の大部分は脂肪組織中で脂肪合成へ利用され、 腹腔脂肪や皮下脂肪となります。 6・2. 生活活動強度 四訂 食品成分表 2000 (香川芳子/監修、女子栄養大学出版部) は、1 日当たりのエネルギ所要量は、基礎代謝に対する生活活動強度の倍率で示しています。 エネルギ所要量 = 1 日の基礎代謝量 x 生活活動強度 (Af:activity factor) Af の例を下記します。 Af = 1.0: 睡眠、横になる、ゆったり座る、本などを読む、テレビなどを見る。 Af = 1.4/1.5/1.6: 料理、食事/裁縫、生け花、麻雀、楽器演奏、車の運転/ ワープロ、算盤、記帳などの机上事務。 Af = 2.0 / 2.2 / 2.7: 乗り物中で立つ / ゆっくり歩く、洗濯 (電気洗濯機) / 掃除 (電気掃除機)。 Af = 3.6 / 4.0: 自転車 (普通の速度) / ゴルフ、ハイキング。 Af = 4.5 / 5.8: 急ぎ足で歩く / 階段の昇降。 Af = 7.0: テニス、登山、ジョギング (120 m/分)。 Af = 9.0: ゆっくり泳ぐ、縄跳び (60-70 回/分)。 食後に 2-3 時間程度、ゆっくり歩く、ワープロを使って仕事をする、精白米の御飯 400 g に匹敵するエネルギ量の食事後、4-5 時間で、摂取した食事の全エネルギが消費されます。 余剰エネルギは、先ず、貯蔵グリコーゲンの合成に利用されますが、グリコーゲンの貯蔵量が満杯であるとき、脂肪の合成に利用され、肥満の最大の原因になります。 貯蔵脂肪は、グリコーゲンや筋肉蛋白質に比して、基礎代謝エネルギとして非常に利用しがたいものです。 したがって、健康管理には、余剰エネルギが残存している間に、次の食事を取らないように心掛けることが大切です。 |